昨年『クローズアップ現代』に出演した映画監督のスティーブン・スピルバーグは「登場人物が全く成長しない映画なんて作りたくありません。全然面白くありませんからね」と語った。
実際、大半の映画は、真面目なドラマにしろアクションやホラーやSFや、それこそ一見ふざけたコメディにしても、劇中で何らかの事件が起こり、それを通して登場人物たちに何らかの成長が訪れるものだ。
だがしかし、そんなことは全くお構いなしの作品も存在する。例えば8月10日公開の『ムービー43』がまさしくそれだ。ひたすら観客を笑わせるためだけのコントのオムニバス。大雑把に言えばジャンルはコメディであり、先に書いたようにコメディも登場人物が何かしら成長しているものがほとんどだが、『ムービー43』は純然たるコント集。登場人物の成長なんてない。全くない。ギャグの入れ物としてお話があるだけで、メッセージ性なんて微塵もない。
そしてまた、このタイプの映画は過去にもたびたび製作されている。以下、映画に登場人物の成長や何らかのメッセージを求めない方なら、いやむしろ「そんなものは邪魔だ! メッセージ性なんて犬にでも食わせろ!」という方のために、ただただ笑いにのみ奉仕した作品を5本ピックアップしてみよう。
●モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル(1975)
イギリスのコメディグループ、モンティ・パイソン初の本格的な劇場用映画(この前にテレビ版のリメイク映画『モンティ・パイソン・アンド・ナウ』もあるが)。アーサー王と円卓の騎士の旅という一応の筋立てはあるものの、無駄なことに異常にこだわり会話が脱線しすぎて全然話が進まなかったり、かと思うとアニメであらすじを語ってさっさと話を進めたり、あげくに映画史上類を見ない観客置いてけぼりのいきなりすぎるエンディング(まさかこのまま終わらないよな、と思って観てるとそのまま終わり)等々、見どころ満載。
●ケンタッキー・フライド・ムービー(1977)
コント映画の原点といえばこの作品。ニュースやドキュメンタリー、バラエティ番組や映画予告編など、多様なスタイルのパロディ22編で構成。青少年のニキビ油をファストフードに再利用といった下品で不潔なネタは微妙だが、ものすごくカッコつけて登場する「危険を求める男」が、路上でたむろしている黒人の輪に割り込んで「ニガー!」と叫んで逃げるだけ、というネタはわかっていてもくだらなくて素晴らしい。脚本出演のデヴィッド・ザッカー、ジム・エイブラハムズ、ジェリー・ザッカーのトリオ(頭文字をとってZAZ)は同作のヒットで航空パニックもののふりをしたギャグ映画『フライング・ハイ』で監督にも進出。
●メル・ブルックス 珍説世界史PART I(1981)
コメディ界の重鎮メル・ブルックスによる、おそらく彼のキャリアの中でも最もストーリー性を無視して笑いに特化した作品。人類の夜明けからフランス革命までをものすごく雑にピックアップしたオムニバスで、モーゼが戒律が五つ記された石版を一枚落として割ってしまうため十戒になったとか、シーザーの宮殿がラスベガスのシーザーズ・パレスそのまんまといったネタもそこそこ楽しいが、圧巻はミュージカル仕立てのスペイン宗教裁判。後にブロードウェイミュージカル『プロデューサーズ』の作者として人気復活する萌芽がここにあるとも考えられなくもない。ちなみに「PART II」はありません(本編後にフェイクの予告のみ存在)。
●トップ・シークレット(1984)
『フライング・ハイ』に続いてのZAZ監督第二作。東ドイツに招聘されたロックスターがスパイ合戦に巻き込まれるという派手な筋立てだが、やはりストーリーは単なる入れ物で、登場人物の背景や画面の隅っこ、あるいは効果音だけのボケ等、一度観ただけでは発見しきれないほどのギャグを『フライング・ハイ』以上に大量に詰め込んでいる。牛に変装する場面でホンモノの牛にアフレコしてるだけだったりと、私見ではZAZの最高傑作だが、ボケのみに注力してツッコミ役が不在のためか興行的に大失敗だったようで、以降はもうちょっとわかりやすい演出で、トリオも解散してそれぞれソロで、デヴィッドは『裸の銃を持つ男』、ジムは『ホット・ショット』等を監督。なぜかジェリーのみ『ゴースト ニューヨークの幻』で感動系に開眼。
●最終絶叫計画(2000)
『羊たちの沈黙』ならぬ『羊たちの沈没』、『ジュラシック・パーク』ならぬ『チキン・パーク』、『マトリックス』ならぬ『アホリックス』等、ヒット作のストレートなパロディが日本ではことごとく劇場未公開、ビデオリリースされてもレンタル店の隅でホコリをかぶっている状態の中、『スクリーム』のパロディ、というかほとんど同じ話に場当たり的ギャグを加えた本作が劇場公開されて予想外のヒット。正直なところギャグはかなりゆるい感じだが、ここしばらくはコメディといえども感動できる作品が増加してきた中で、これだけメッセージ性のない作品をきちんと作ってしかもシリーズ化しているのは嬉しい限り。
そんなわけで果てしなくくだらないとされる『ムービー43』とともに、この手のメッセージ性皆無、かつちゃんと笑える映画群の登場をこれからも期待します!
(田中元)
※写真は、『ムービー43』公式サイトより
(C)2013 Relativity Media
【関連リンク】
『ムービー43』公式サイト
http://movie43.asmik-ace.co.jp/top.html