角野栄子氏の名作児童文学を原作としたファンタジー・ドラマ、映画『魔女の宅急便』の清水崇監督にインタビューした。聞いて思い出すのは、スタジオジブリの『魔女の宅急便』(89)で、『呪怨』シリーズなどホラーのイメージが濃い清水監督がキキを? というトンチンカンな質問が多い中、「夕刊ガジェット通信」は清水監督だからこそ実写化のメガホンを取る監督にピッタリ! という立場でインタビュー! その理由を、ここでヒモ解いてみたい。
■事務所の人間には『監督、正気ですか?』って言われましたよ(笑)
13歳の少女キキが一人前の魔女になるために、見ず知らずの街で一年間生活して、その間に経験する出来事を経て成長していく姿を優しく見つめるストーリー。キキを演じる新生・小芝風花の魅力が炸裂、愛らしい実写版キキの誕生だ。
「地方まで足を延ばして、どこの事務所にも所属していない、まったく演技経験のない子どもたちも含めてオーディションをして。最終的に僕が彼女に決めました。彼女は大手のオスカー(プロモーション)なので、プロデューサーは『ゴリ押しと言われる!』って頭を抱えていましたが(笑)」
スタジオジブリ版が有名すぎるため、「オファーを聞いて及び腰になる人は多かったと思いますが、僕は即答でした(笑)」という清水監督。周囲の反対はあったが、その想いは強くなる一方だった。
「最初はホラーのイメージが強い僕にどうして話が来るのかな? と自分でも思いましたが、単純に手掛けてみたいと思いました。でも事務所の人間には『監督、正気ですか?』って言われましたよ。あまりにも有名なアニメ映画がまずあるし、ハードルが高い上に、ホラーで築いたキャリアさえ台無しになりかねないって(笑)」
しかし、清水監督の近作『ラビット・ホラー3D』(11)にしても、ホラーであっても、そのコアには家族のドラマや少女の成長を描くシーンが多々ある。そして孤独や困難に立ち向かっていくキキの姿は、これまでの清水映画、そのヒロインの系譜に連なると言っても過言ではない。
「そうですか(笑)。過去作は見え方がどうしてもホラーなので、まずは怖いかどうかが作品の中心で。確かに僕自身は毎回、家族などのテーマを持ち寄っていますが、その点はなかなか注目されない。なので今回、特別なことをしている気はないですね」
すなわち、ホラーのイメージが濃い清水監督がキキを? という正反対の世界観に清水監督が身を投じたという見解は、ちょいとピンボケということになる。
「僕の理解ではファンタジーの世界の“怖さ”凝縮するとホラーになって、あくまでも地続きなわけですよ。“ハロウィン”では皆、怖さを楽しんでるじゃないですか(笑)。それをシリアスにしていくと、ホラーなどになる。今までのホラーも、ファンタジー要素はあります。それと特にキキが空を飛べるという1つの魔法だけがファンタジーで、このシンプルさがいいと思いました。魔法って都合よく捉えられがちだけれど、誰にでも魔法はある……ってのが、原作:角野さんのメッセージですからね。キキの唯一の飛べる魔法と、観てくれる人が自身に感じる魔法とがリンクしたらいいなと思って作りました」
■ホラーを取っ払うと、自分にどういうモノが出せるかという興味はありました
毎回、作品にテーマを注入しているという。ちなみに今回は何をテーマにしたのか?
「テーマは、作品を通じて観る人によって感じ方が違っていいのですが……監督が公言すると、あたかも正解みたいに思われてしまうし。ただひとつ……キキは自分の“飛べる”魔法を糧に仕事を始めますが、順調に見えた仕事も魔女(魔法)ゆえの宿命的な背景が邪魔して思いもしなかった壁にぶち当たります。このくだりは僕自身が加筆していったのですが、ある時『これって、監督じゃないですか?』って助監督に言われて(笑)。あっ! と思いましたね。確かにどんどん脚本に呪いという言葉をセリフで足していって、これはもしや自分を投影していたかと(笑)。言われて初めて思いましたが、自分じゃ気づかないものです。40歳過ぎのオッサンが13歳の少女に自己を投影して、恥ずかしくなりました(笑)」
有名すぎるアニメーションとの比較というプレッシャーを感じながらも、清水監督自身にとっては、自分にかかった“呪い”との闘いが主題だった。
「だから今回、アニメーション版のイメージを無理矢理変更するということではなくて、そもそも実写にした時点で生々しさが自然に出るので、全然違うものになりますよね。実写でこその、痛みや重さを感じ取れる存在感を人にも街にも描き出す試みでしたね」
こうして完成した映画は、春にピッタリな少女の成長ストーリーに。清水監督自身も“呪い”から解放されたはずだが……。
「(笑)。フタを開けて、公開されてみないと分からないですね。皆さんに、気に入ってもらえるか否か? ただ、そのためには映画を観ている人がキキを好きになってくれるかどうかということが重要だと思っていたので、最後まで愛し抜けるキキに仕上げたつもりです。ぜひ映画館で確かめていただければと思います」
映画『魔女の宅急便』は、2014年3月1日(土)より、全国ロードショー
【関連情報】
映画「魔女の宅急便」公式サイト
http://www.majotaku.jp/
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