音楽史に語り継がれるライブ映画『プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ』がHDニューマスター5.1ch版として、1月25日(土)より渋谷HUMAXシネマ、吉祥寺バウスシアター、109シネマズMM横浜ほかにて全国順公開される。
キャリア9枚目となる大傑作の同名アルバムの映画バージョン、とは言え、元々映画作品として発表される予定だったわけではなかった。しかしツアーが始まり、計算され尽くされた演出、出演者達のパフォーマンスやステージングの完成度の高さが絶賛され、各地であまりにも話題になったため急遽映画として撮影されることになったというものだ。完璧主義者プリンスの、音楽家、パフォーマー、演出家としての凄みが凝縮された映画なのである。
元々このアルバムは、それ以前の商業的不振、自身のバンド“レボリューションズ”を解散させるなど若干の低迷期を経た後に発表されたもの。そのため、それまでの反動なのか自らがほとんどの作業を独りで行った80分越えの2枚組という、プリンスという音楽家の底なしのポテンシャルを半ば逆切れ的に証明したかのような大濃密作となったのだ。しかも、ほとんど独りで作り上げたにもかかわらず曲調のバリエーション、各曲のストーリー性の豊かさが際立っており、とても独りで作り上げた作品とは思えない広がりも持っているのがこの作品の特徴。今で言えば“宅録”のようなものだが、その多くが内面的で閉鎖的な音楽性に向かって行く傾向にあるのとは真逆で、ファンク、ソウル、ロック、ゴスペルと縦横無尽に展開されるのがプリンスならでは。
そしてライブはというと、豪華なセットはもはや“舞台”であり、ダンサーの“キャット”と恋人のストーリーを中心に、ダウンタウンの街角での様々な人間模様が描かれる。演奏者達も、演奏だけでなくそれぞれが街の住民としてキャラクターを演じており(キーボードのDr.フィンクことマット・フィンクは白衣を着た医者のコスチュームだったり)、これも演出家プリンスのコンセプトと美意識によるものだろう。その中で歌い演奏するプリンスは、さしずめ街の守り神、温かい眼差しを送る傍観者、といったところだろうか。こうして街の悲喜こもごもが描かれた後、登場人物全員を包む救いのような最後の曲、「ザ・クロス」はとても感動的だ。
なにより、観るもの誰もが(初めてプリンスの舞台を観る者は特に)その自在なボーカル、ギター、ピアノ、ドラム、そしてキレキレのダンスに圧倒されるはずだ。あの小さな体にいったいどれほどのエネルギーが渦巻いているのか、と不思議になるほどの爆発的な表現力なのである。様々な演出がなされ、シアトリカルな舞台ではあるが、それをドライブさせ音楽で埋め尽くしているのはやはり音楽家プリンスの存在感である。
この『サイン・オブ・ザ・タイムズ』は独りの音楽家に出来ることの無限の可能性を、30年近く経った今もなお鮮やかに示してくれる。音楽ファンや、アーティストたちはもちろん、いつの時代の誰が観ても価値のある鮮烈なライブ・ムービーである。
Photo:(C) 1987 PURPLE FILMS COMPANY. ALL RIGHTS RESERVED
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